哲学、読書、演劇、思ったこと。

谷翔です。読書メモ以外はnoteで書くことにした→https://note.com/syosyotanisho10

たまにはラーメンの話など。

この前、私用があって茨城県つくば市に行ってきました。

せっかくなので、イチカワへも。グーグルマップの記録によると5年ぶりです。

イチカワは煮干中華そばの店。
ラーメンデータベースで全国ランキング1位だった時期もある名店(現在は6位)。

到着は朝9:30。誰も並んでない!
店前のベンチに座って本を読みながら待ちます。

読んでいたのは、佐藤優『国家と神とマルクス自由主義保守主義者」かく語りき』角川文庫。

印象に残った部分。

弁護士の安田好弘についての部分。
「私には法律がイデオロギーであることが皮膚感覚でわかる。おそらく私のほうが安田氏よりも「遵法精神」において劣るのだと思う。東京拘置所に収容されたとき、安田氏は怒りで何度も目が覚めた由であるが、私はそのようなことは一度もなかった。ゆっくり読書と思索、そしてメモ作りに集中でき、食事もおいしかったので、私にとって東京拘置所の独房生活はまったく苦ではなかった。私は法律はしょせん支配者のイデオロギーに過ぎないのだから、司法権の独立など最初から信じていないし、国家が生き残り本能で国策捜査を行うことも当たり前で、今回はそれに「大当たり」になったのが運が悪かったと考え、歴史の検証に堪えうる公判記録を作るという「イタチの最後っ屁」をしてやろうと決め、できる限りそれを実践した。最初から法律に何も期待していないので怒りも沸かなかった。
 安田弁護士が独房で怒り心頭に発したのは、法律を信頼し、司法権の独立が時の権力によって歪曲されているとはいっても完全なフィクションとは思っていなかったからであろう。独房内では外界では考えられないほどの知的エネルギーが出てくる。私が神学・哲学書、歴史書の読み込み、ラテン語ギリシア語に集中したエネルギーを安田氏は供述調書や証拠物の徹底的な読み込みに使った。そして、検察側が提示した証拠の綻びを獄中で見出し、国策捜査をはね除け、一審で無罪を得たのである。面子を潰された検察は当然控訴した。」p88

太平記』についての部分。
「検事の脅し、理詰めの厳しい取り調べにはそれなりに耐えられた。いちばん苦しかったのは、私が全幅の信頼を置き、苦楽を共にした盟友たちが検察に迎合し、事実ではないことを供述していると知ったときだ。人間の耐性はそれぞれ異なるし、国家権力を相手に個人が筋を通すことは至難の業であることはよくわかる。しかし、理屈では割り切れない淋しさを覚えた。そのとき読んでいた『太平記』のある物語が私の腹にストンと落ちた。ある夜、京都北野天満宮に三人の賢者が集まり、南北朝動乱の原因について哲学論議を行う。一人の僧がすべてはいにしえの因縁によるといって以下の物語を披露する。
〈大昔、世界が三年間干魃になって竜王が住む無熱池が干上がった。この池に長さ約一五〇メートルの摩羯魚と人間のことばをしゃべる多舌魚がいた。干魃に乗じて漁師たちが摩羯魚を捕らえようとした。あちこち探すが見つからない。漁師たちが帰ろうとすると多舌魚が出てきて情報提供をする。
「摩羯魚は他の多くの魚とともに岩の下に隠れている。早く捕まえて、殺してしまえ。密告した褒美に私だけは助けてくれ」
 この結果、多舌魚を除く全ての魚は殺されてしまった。多舌魚は輪廻転生を繰り返し、現在は「返中(寝返り)の大臣」となって、それで国家が滅びた〉
 この物語を読んだ後、取り調べにも平静に対応できるようになった。私はソ連崩壊前後にさまざまなロシア人の生き方を見てきたが、多舌魚はロシアにも日本にもおり、それは本人の責任ではなく、いにしえの無熱池の因果が繰り返されているに過ぎないという言説が、独房でリアリティーをもって私に迫ってきた。『太平記』は私がかつての盟友たちに対する「憎しみの罠」に落ちることを防いでくれた救済の書なのである。」p116-117


僕が佐藤優を好きな理由の一つは、彼が、現状をある種の「運命」のようにとらえることで心の平穏を得ている点である。スピノザを好きな理由もおそらく同じだ。

面白いのは、佐藤優安田好弘のような、現状の「不正」に怒りを燃やして対抗しようとするという部分を持った人にも魅力を感じている点である(佐藤が惹かれているのは必ずしもその部分ではないようだけれど)。彼が安田のような人に惹かれるということが、より一層、彼の魅力を僕に感じさせる。

「現状をある種の「運命」のようにとらえることで心の平穏を得る」こと。
「現状の「不正」に怒りを燃やして対抗する」こと。

これらの両立。
平穏と怒り。
冷たさと熱さ。
同じテーマを以前、別の角度から書いたことがある(https://tani55sho44.hatenablog.com/entry/2020/04/14/012357)。

この両面を持った人に、僕は魅力を感じる。



話がめちゃくちゃ逸れましたが、そう、僕が行ったのはイチカワです。

11:30、開店。

静かな店内。
話す人はほとんどいない。
黙々と調理などの作業をする二人の店員さん。

この厳かさみたいなものが、イチカワの本質な気がする。
この厳かさがあって、あの味を感じることができるようになる。

厳かな空間にいると、人の心も厳かになっていきます。
あの空間は、厳かさへの誘いです。

煮干そば醤油 味玉
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めちゃくちゃ美味しかった。
リアルに震えました。
はい。
ラーメンブロガーじゃないので味を言葉にはできません。笑

和え玉も食べました。
美味しかった。

でも、今度は味玉も和え玉もいらないかもなと思った。
もちろんそれらも美味しいんだけど、中華そばだけに精神を集中して食べたほうが、イチカワの本質を堪能できるような気がしたんですね。


終わり!