哲学、読書、演劇、思ったこと。

谷翔です。読書メモ以外はnoteで書くことにした→https://note.com/syosyotanisho10

『落とし物』

『落とし物』

母、父がリビングにいる
母はソワソワしている
父は新聞を読んでいる
子が学校から帰ってきてリビングに入る

子「ただいまー」
母「おかえり。ねえ[子]電話に出ないからさ。【子、「え」と言ってカバンから携帯を出して確認する】あの、電話きたよ、部室の鍵が戻ってなくて、電話、部室の鍵を間違って持って帰っちゃってませんかー、って、田巻先生から【子、カバンの中に鍵がないか探し始める】。あのー、なんだっけ、あの、あっちの方にある、学校、あ、予奥高校! で、部室の鍵が盗まれたのあったじゃん、なんか、覗き? っていうか、忍びこんだんだっけ、夜に。捕まったけど。それで先生たちも神経質になってるのかなー、って思うけど。もー、[子]に電話しても出ないんだもん」
子「自転車乗ってたから気付かないよ」
母「ああそう。でも、今までも何度かあったんだよね? また岩瀬くん(さん)なんじゃないの?って思っちゃった、アタシ。岩瀬くん(さん)がいつも間違って持って帰っちゃうんでしょ?[子]が電話に出ないからさ、アタシ、でもやっぱり、心配じゃない?」
子「鍵ないよ」
母「え? ああ、鍵は見つかったんだって」
子「え?」
母「少したってからまた電話きてね、田巻先生から。見つかりましたー、って。鐙くん(さん)が持って帰ってたんだって」
子「いや、それ早く言ってよ、無駄に探しちゃったじゃん」
母「ああごめん。あんたの部活、抜けてる人多いよねえ。天然? [子]は天然じゃないよねえ」
子「ねえ、いつも言ってるけどさ、大事なことを先に言って。こっちが無駄なことしちゃうから」
母「ごめん。あれ、でもまだ捕まってないんだっけ、不審者」
子「ねえちゃんと聞いてる? 大事なことは先に言ってって言ってるんだけど、私は」
母「ああうん。気を付けるよ今度から。あれ、捕まってないんだっけ? なんか捕まってなかった気がする。いや、でも[子]電話に出ないのちょっとアタシ焦ったからね、出てよー」
子「いや、出れないよ、気づかないって、自転車漕いでるしカバンにスマホ入ってるんだから。電話に出ないあんたが悪い、みたいな言い方やめてよマジで」
母「えー、そんな言い方してないんじゃん」
子「してるよ!」
母「えー、そう? お父さん」
父「ん、分かんないなあ」
母「分かんないって」
子「はあ、もういいよ」
母「なんか機嫌悪いね、[子]。ねえお父さん」
父「うーん」
母「まあいいや、ご飯にしよ」
子「はあ」
母「いいじゃないねえ、鐙くん(さん)が持ってたんだから。ねえお父さん」
父「鐙くん(さん)が持って帰ったんじゃなかったよ」
母「え?」
父「鐙くん(さん)が見つけた、って言ってたよ。持ってた、じゃなくて」
母「え、お父さん、田巻先生の声聞こえてたの? 耳すごくいいね」
子「いや、え、鐙がどこかで拾ったとかそういうこと?」
父「うん」
子「え、じゃあ、え」
母「あ、お米、おじいちゃんのところから今日送られてきたんだよ!」
子「ねえ! その、不審者って捕まったんだっけ、結局」
母「えー、どうだったかなぁ、分かんない」
子「なんか心配になってきた」
母「捕まったんだっけ? お父さん」
父「捕まったみたいだよ」
子「は?」
父「昨日の新聞の記事にあったよ」
子「捕まったって?」
母「あら、良かった〜」
子「早く言えよ!!」
母「ねえお米、新米だって、お父さん」
父「そうか」

終わり