哲学、読書、演劇、思ったこと。

谷翔です。読書メモ以外はnoteで書くことにした→https://note.com/syosyotanisho10

『葬儀場で』

『葬儀場で』

則太(のりた):28歳男
明佳音(あかね):29歳女
恋人、付き合って2年半

則太の従兄:30代
則太の母:50代

明佳音、自分の部屋のベッドに寝転んでいる
明佳音の枕元にはスマートホンがある
則太、葬儀場のロビーに来て、ソファに座り、スマートホンで電話をかける
明佳音、電話に出る(スピーカーにする)

則太「ごめん、ちょっと遅くなった」
明佳音「ううん」
則太「飲み会しててさ」
明佳音「飲み会?」
則太「明日通夜だからさ、通夜ぶるまいは他の親戚もいるけど今日はほんとに身内だけでうちの家族と従兄の家族だけだからさ、気、つかうことないし、もうどんちゃん騒ぎ(笑)」
明佳音「あはは、楽しそう」
則太「うん」
明佳音「おじいちゃんには会えた?」
則太「そりゃあね、会えますよ。そりゃあね」
明佳音「そうだよね」
則太「なんたって、主役だからね」
明佳音「主役?」
則太「お葬式の主役と言ったら、亡くなった人じゃないですか」
明佳音「あぁ」

ロビーに則太の従兄が来る

従兄「則太。あ、電話中だった?」
則太「あ、うん」
従兄「酒買ってくるけど、なんか欲しいものある?」
則太「いや、特に。なんでもいいよ」
従兄「じゃあビールね」
則太「うん、ビール。あ、麒麟!」
従兄「おっけー」

従兄、外に出ていく

則太「今の従兄」
明佳音「ふふ」
則太「イケメン」
明佳音「イケメン多いね」
則太「そうなのよ、多いのよ」
明佳音「なんか、今日テンション高いね(笑)」
則太「高い?」
明佳音「うん」

ロビーに則太の母が来る

母「何してんのそんなとこで」
則太「んー?」
母「彼女と電話?」
則太「んー、まあ」
母「ふーん」
則太「なんですかー」
母「そこ寒くない?」
則太「寒くないよ」
母「そう。ねえ、トイレ二階にもあったよね」
則太「うん、あったあった」

母、ロビーを出ていく

明佳音「お母さん?」
則太「うん」
明佳音「お母さんに、彼女いるって言ったの?」
則太「言った。っていうか、いま来てる親戚みんなに言った」
明佳音「へえぇ」
則太「さっき言った」
明佳音「あはは、ほやほやだ」
則太「ほやほや?(笑)」
明佳音「うん」
則太「まあ、そうね」
明佳音「ずっと言ってなかったのにね」
則太「まあ、じいちゃん死んだしね」
明佳音「どういうこと?」
則太「うーん、分かんないけど、なんか、そんな気がした」
明佳音「ふーん」
則太「まあ、死んだ人には嘘つけないですよ」
明佳音「嘘?」
則太「ん?」
明佳音「嘘ついてたの?」
則太「んー」
明佳音「(待つ)」
則太「嘘、ではない、か。言ってなかっただけだもんな」
明佳音「そうなの?」
則太「うん、たぶん、そうだね」
明佳音「でも、なんで言ってなかったんだろうね」
則太「うーん、でもやっぱり、じいちゃんが死んだのは大っきい気がする」
明佳音「……「言った」理由?」
則太「うん」
明佳音「ふーん」

終わり