哲学、読書、演劇、思ったこと。

谷翔です。読書メモ以外はnoteで書くことにした→https://note.com/syosyotanisho10

『傘を』

『傘を』


A 女
B 男
C 男
全員苗字呼び
全員高校卒業したばかり

雨が降っている
中学校の校門前のバス停でAとBが立っている
Aは傘を差している
Bは傘を差していない


A「あの、傘、お貸ししましょうか?」
B「ありがとうございます。でも、大丈夫です」
A「え、あ、そうですか。いやあの、もう一本折りたたみ傘を持っているので。すごく濡れてますし」
B「ありがとうございます。でも本当に大丈夫なんです。ありがとうございます」
A「そ、そうですか」
B「はい。ありがとうございます」

C(傘を差していない)が歩いてくる

B「C?」
C「うん」
B「おぉ」
C「ほんとにいた」
B「いや、それな。ほんとに来た」
C「びっくりした」
B「俺も」
C「差さなかった?」
B「うん」
C「そうか」
B「でも、危なかったよ、さっき、こちらの方が傘を貸してくれそうになって(Aを示す)」
C「あ、へー」
B「あ、すいません、なんか」
A「え、あ、はぁ」
B「僕たち、この中学の卒業生で、中1の頃から「傘差さない同盟」っていうのをやってたんです」
A「え」
B「高校でお互いめっちゃ遠くの高校に行くことになって、その時、高校卒業まで傘を差さないでいられたらここで会おう、って決めたんです」
A「え、もしかして、B君?」
B「え!? そうだけど、え、ごめん、同級生?」
A「Aだよ!」
B「え、Aさん!? まじで!?」
A「そう、すごい久しぶり」
B「Aさん、傘差さない同盟知ってたんだ?」
A「同盟があるのは知らなかったけど、B君って全然傘差さなかったなぁっていうのはすごく覚えてる」
B「えー、なんか嬉しいな。あ、こいつC、覚えてる?」
C「いや、えっと」
A「C君?」
C「ん、うん、久しぶり」
A「C君って」
C「(Aを睨む)」
A「(黙る)」
B「ん?」
A「(黙る)」
B「ん、どうした? Cだよ、覚えてない? こいつも傘差してなかったじゃん」
C「あ、B、せっかく会ったんだし、飯でも行こう」
B「あ、そうだな。Aさん、偶然だけど会えてよかった。またね」
A「ん、うん。またね」

B、C、行こうとする。

A「あのさ!」
B「ん?」
A「C君、傘差してたよ、中学の時」
B「え!?」
A「私たち、2、3年のとき付き合ってたんだけど、雨の日は2人で相合い傘してたよ」
B「あ、あー」
C「(恨めしそうにAを見る)」
A「それだけ!」
C「B、ごめん!」
B「え、相合い傘ってダメなの?」
C「え?」
B「俺、中学の頃は彼女いなかったからアレだけど、高校になって彼女できて相合い傘はしてたよ。いや、っていうか、彼女と相合い傘くらいさせてくれよ!」
C「はぁ? そういう感じなの?」
B「そういう感じっていうか」
C「俺帰る」
B「え、え、え、なんで!」
C「じゃあな(走り去る)」
A「(バスが来て)じゃあ、私も」

A、バスに乗る
バスが走り去る
Bがひとり残される

B「え、どうなってんのこれ」

終わり