哲学、読書、演劇、思ったこと。

谷翔です。読書メモ以外はnoteで書くことにした→https://note.com/syosyotanisho10

『絵を見ながら』

『絵を見ながら』

則太(のりた):28歳男
明佳音(あかね):29歳女
恋人、付き合って2年半

茨城県近代美術館
クールベ作の「フランシュ=コンテの谷オルナン付近」を2人で見ている
(美術館なので)小声気味で話している

則太「この絵、けっこう好きだな」
明佳音「ふーん」
則太「こういうところで暮らしたいかも」
明佳音「えー、なんか寂しくない?」
則太「あー、んー、そうかなぁ」
明佳音「電車とか通ってなさそう」
則太「いやー、それは」
明佳音「通勤大変そう」
則太「うーん」
明佳音「崖もあるし」
則太「あるし、って?」
明佳音「自殺した人とか落ちてそう」
則太「「落ちてそう」はやばいよ(笑)」
明佳音「ふふ」
則太「(あらためて絵を見てから)明佳音と2人で暮らしたいかも」
明佳音「え、ここで?」
則太「うん、まあ」
明佳音「やだぁ」
則太「え、なんで」
明佳音「(少し逡巡してから)ねぇ、崖の向こうってどうなってると思う?」
則太「崖の向こう?」
明佳音「そう」
則太「(ジェスチャーをしながら)あっち側ってこと? 書かれてない」
明佳音「そう」
則太「うーん、あんまり考えてなかったな」
明佳音「(待つ)」
則太「草原とかかなぁ」
明佳音「あー」
則太「なに、あーって」
明佳音「いや、べつに」
則太「べつに?」
明佳音「(反応しない)」
則太「いや、なんか、あんまり人がいない方がいいかなぁって」
明佳音「いた方がいいよ」
則太「そっか」
明佳音「(反応しない)」
則太「たしかに、2人だけだと寂しいよね」
明佳音「寂しいっていうか、息が詰まりそう」
則太「あー」
明佳音「分かる?」
則太「まあ、分かる」
明佳音「そうなんだ!」
則太「え、うん」
明佳音「じゃあ解決だ」
則太「解決?(笑)」
明佳音「次いこっか」
則太「あ」

明佳音、隣りの絵の前へ移動しようとする

則太「(大きな声で)み、湖もあるよ!」
明佳音「!(大きな声に驚く)」
則太「(ハッとして口をつぐむ)」
明佳音「あるけど(笑)。なに?」
則太「いや、なにっていうか」
明佳音「どうせ死体浮いてるから」
則太「あー、そうか」
明佳音「次いくよ!」

明佳音、隣りの絵の前へ移動する
則太、その場に残って絵を見る

則太「(大きな声で)天気もいい!」
明佳音「しっ!」
則太「(ハッとして口をつぐみ、隣りの絵の前へ移動する)」

終わり