哲学、読書、演劇、思ったこと。

谷翔です。読書メモ以外はnoteで書くことにした→https://note.com/syosyotanisho10

クロワッサンの女①『ラストバイバイ』『君はウンコ』『しっくり』

クロワッサンの女①

『ラストバイバイ』は谷作ではなく、谷の知人作。
『君はウンコ』と『しっくり』は谷作。『ラストバイバイ』を読み、同じ世界の話として書いた。


……


『ラストバイバイ』

A男
B女

ファストフード店にて
横並びで座っている


A「バイバイ、?」
B「そう、バイバイ」
A「うーん?」
B「ちょっと、えーって感じじゃない?…2年間だし。2年間付き合って、最後の言葉が、バイバイ」
A「うーん…ダメなの?」
B「2年間の最後がバイバイ。ラストバイバイだよ?」
A「ラストバイバイ」
B「せめてなんか、こう…なんかさあ。別れるときってこんなあっさりしてるもんなのかな」
A「んー。そんなもんなんじゃないの?」
B「そうなの?」
A「いや、わかんないけど。…いや、だって、もう別れたいって言うか言われるかしてる時点で、もうどっちかが好きじゃないのは確定じゃん」
B「…うーん」
A「えっと、まず、どっちかが別れようって話を切り出すじゃん」
B「うん」
A「で、その時点で、その切り出した側?…だから今回で言う、Bの彼氏。には、もうBに好意がないってことでしょ?」
B「あー」
A「相手には自分にもう好意がないってわかってるのに、最後にそんな、あっさりしてない言葉言われても、なんか、嫌じゃない?」
B「(笑う)」
A「ね?」
B「うん、確かに。それはなんか、嫌だ」
A「うん」
B「ラストバイバイは正解だ」
A「バイバイじゃなくてもいいんだけどね?」
B「でも、バイバイくらいがちょうどいいよ。ありがとう、とか、振った側から言われても、なんかうざいし」
A「さっきまであんなにバイバイにダメ出ししてたのに」
B「バイバイ信者になっちゃった」



A「ていうか、なんで振られたの?」
B「えー?…うん、意味わかんないよねえ」
A「え、何て言われたの?ラストバイバイにいくまでに、何を言われたの?」
B「めっちゃ聞きたがるじゃん」
A「面白いじゃん、他人の別れ話」
B「はえー、最低」
A「で?で?」
B「うーん。なんか、まあ、いっぱい言われたけど。一番覚えてるのは、一緒にいる時に他の男とずっとLINEしてるのが嫌だったってやつ」
A「へー!」
B「まあその、"他の男の人"の中に、Aも含まれてるわけだけど」
A「やめて?別れた原因押し付けてくるの」
B「(笑う)」
A「結構束縛強めの彼氏だったのか」
B「んー、なんかね。まあ、言われてみればそうかも」
A「ふーん。B、そういう人好きにならなそうだけど」
B「ほんと?」
A「うん。なんか、重くて、疲れそうだし」
B「いや、そうでもなかったよ」
A「あ、そうなんだ」
B「うん。普通に、好き、だったし」
A「うん」
B「…最後の言葉がバイバイの人なんて、そんなに重くないよ」
A「(笑う)」
B「でしょ?」
A「いや。うーん。まあ、それもあるかもしれないけど。それ、か、その重さが軽くなっちゃうくらい、Bのこと好きじゃなくなったか」
B「あー…」
A「うん」
B「…あ、ごめん。時間だ」
A「ああ」


B、帰り支度をしながら


B「良かったの?」
A「え?」
B「彼女さん。いるのに、私と2人でご飯って。いいの?」
A「あー。うん。いいんじゃない?別に」
B「うわ、チャラーい」
A「はー?」
B「Aがバイバイって言われる日も近いなあ」
A「いやー、それはないかな」
B「言われたら報告してね。ラストバイバイ」
A「だから言われないって」
B「ふふ。今日ありがとね、ほんと」
A「うん、全然」
B「じゃ、バイバイ」
A「バイバイ」


……


『君はウンコ』

A男
B女

ファミレス
向かい合って座っている

A「ウンコ」
B「(黙る)」
A「ウンコ」
B「なにそれ」
A「君はウンコ」
B「(黙る)」
A「一緒にいるのに他の男とLINEする最低ウンコ」
B「そんなにいやだったの」
A「はい」
B「そう」
A「はい」
B「言ってよ、いやだったなら」
A「言ってたよ」
B「言ってたけど、本気じゃなさそうだったじゃん」
A「ウンコ」
B「(黙る)」
A「ウンコ」
B「何なの」
A「ウンコ」
B「ねえそれやめてくれない?」
A「それ?」
B「その、ウンコっていうやつ」
A「(黙る)」
B「ちゃんと会話してよ」
A「ある映画でね、「人から言われて一番嬉しい言葉は自分の名前だ。だから好きな人の名前はたくさん呼んであげるんだ」っていう名言があるよ」
B「何の話?」
A「(Bを呼ぶ感じで)ウンコ」
B「(黙る)」
A「ウンコってさぁ」
B「ウンコじゃない」
A「ふーん」
B「はぁ、なんか、やだな」
A「僕はそんなにやじゃない」
B「私はイヤ」
A「うん」
B「ウンコはもういいけど」
A「よくない」
B「いいの」
A「(黙る)」
B「私は別れたくないんだけど」
A「僕は別れたい」
B「なんで?」
A「ウンコだから」
B「(黙る)」
A「あ、間違った」
B「なに」
A「間違ってた」
B「何が?」
A「もう好きな人じゃなかった」
B「なに言ってんの?」
A「好きな人じゃないから名前呼んじゃだめだ」
B「あぁそれか」
A「(黙る)」
B「(黙る)」
A「バイバイ(立ち上がる)」
B「え?」
A「バイバイ(去ろうとする)」
B「ちょっと待って(Aをつかむ)」
A「バイバイ」
B「(黙る)」
A「(去る)」

終わり


……


『しっくり』

A男
B女

ファーストフード店
横並びで座っている

A「じゃ、バイバイ」
B「バイバイ(立ち上がろうとする)」
A「あ、でも」
B「ん?」
A「罪悪感とか感じてたってこと? 彼氏と一緒にいる時に他の男とLINEしてることに」
B「うーん、どうだろ、感じてたかな……なんで?」
A「別れたい理由いろいろ言われた中で、一番印象に残ってるのがそれだったんでしょ?」
B「そうだよ」
A「印象に残ってるってことはさ、Bの中でも何かあったんじゃないかと思って」
B「何か?」
A「罪悪感とか、後ろめたい気持ちとか」
B「うーん」
A「なかった?」
B「うーん、ないかも」
A「そっか」
B「いや、あるかも」
A「ある?」
B「うーん、いや、罪悪感とかはないかな、やっぱり。でも、あの人がいやがってるっていうのは分かってた」
A「あー」
B「でもさ、Aと話したいじゃん」
A「そうだよね」
B「Aと話してるとき楽しいじゃん、私」
A「そうだね」
B「Aだけじゃなくて、私が話して私が楽しい人ってたくさんいるじゃん」
A「うん、そうだね」
B「それがイヤだったっていうんなら、それは私自体のことがイヤだったってことじゃない? 楽しんでる私のことがイヤだったってことでしょ? それって私そのものがイヤだったってことじゃん。楽しんでる私が私そのものでしょ? あの人、楽しんでない私が好きだったってこと? それって私のことが好きってわけじゃなかったってことじゃん」
A「あー」
B「そっか、だから仕方ないんだ」
A「あはー、悲しみー」
B「(笑)」
A「しっくりきた?」
B「きたかも、結構」
A「そっか」
B「面白いなー」
A「うわー」
B「なに、うわーって」
A「いや、俺も別れるとき、知らないところで彼女にこうやってしっくりこられちゃってるのかな、と思って」
B「彼女いないじゃん」
A「あ、そうだった」
B「彼女いたことないじゃん」
A「うわ! そうだった!」
B「あ、時間だったんだった!」
A「あ、そうだった」
B「面白い話で引き止めないでよね」
A「面白い話してたのそっちだけどね」
B「そうだっけ。じゃ、バイバイ(立ち上がって去る)」
A「バイバイ」

終わり