哲学、読書、演劇、思ったこと。

谷翔です。読書メモ以外はnoteで書くことにした→https://note.com/syosyotanisho10

クロワッサンの女②『君はクロワッサン』『友達の話』

クロワッサンの女②

『君はクロワッサン』は谷作ではなく、谷の知人作。
『友達の話』は谷作。
クロワッサンの女①(https://tani55sho44.hatenablog.com/entry/2021/08/14/175427)の世界と同じ世界。


……


『君はクロワッサン』

A男
B女

ファストフード店にて
横並びで座っている。


B「結構良いところ勤めてんじゃん!」
A「でしょ」
B「へー、すごいなあ。あのAが」
A「どの」
B「2年前まで店長に怒られまくってたAが」
A「はあー」
B「ふうー」
A「Bは?」
B「ん?」
A「なんか、いいことあった?」
B「え、なんで」
A「いや、なんか、今日やたらオシャレしてるから」
B「…ああ」
A「このあとデート?」
B「いや?」
A「合コン?」
B「いや」
A「あ、彼氏いるもんね、そういえば」
B「いや、別れた」
A「えー。まじか」
B「まじでーす」
A「だいぶ長くなかった?」
B「うん、まあ。2年」
A「うーわ」
B「なに」
A「もったいな」
B「うるさいなあ」
A「振られたんでしょ、どうせ」
B「はあ?何、どうせって」
A「違うの?」
B「まあ、そうだけど」
A「合ってんじゃん」
B「ああ、もう」
A「ま、来月あたりにはもう新しい彼氏できてるよ。Bのことだから」
B「…そんなことない」
A「来月には絶対新しい彼氏との写真ばっかりインスタに載せてると思う」
B「そんなことない」
A「インスタガチ勢」
B「まあ、確かにガチ勢ではある、かも」
A「絶対そうだろ」
B「寂しいだけなんだよ。私」
A「え、急にメンヘラ。何?」
B「前の彼氏に、一緒にいるときに他の男とLINEするな、って振られた」
A「うわ。Bっぽい」
B「はあ?」
A「はあ?」
B「寂しかったんだよ」
A「寂しい」
B「うん」
A「彼氏が一緒にいても?」
B「そう。一緒にいても、なんか寂しくて、男友達とLINEしたり、インスタ更新したり。…それで彼氏失うって」
A「本末転倒じゃん」
B「うん。…言われたときはなんか。相手も、本気なのかふざけてんのか、よくわかんない感じで、振られた感なくて。でも、実際結構ショックでさ。帰ってからもう、泣いたよね。泣きながらクロワッサン食べたよ。次の日の朝食べるために買ってた、クロワッサン。8個入りの。全部食べた」
A「(笑う)」
B「その次の日からは毎日、色んな男友達とご飯食べた」
A「うん」
B「わざわざ髪の毛巻いてオシャレして、ネイルまでして行って」
A「…」
B「何を期待してたんだろうね。誰かお持ち帰りしてくれるとでも思ってたのかな」
A「…」
B「『彼氏に振られたんだ〜!でも"楽しんでる私が嫌だ"って私のこと嫌いってことだよね〜』とか言って」
A「…」
B「本当は死ぬほど悲しかったのに」
A「…」
B「捨てられたくなかった、ずっと愛されたかったって、今でも思ってる。悪いのは私だけど」
A「…」
B「…ねえ、Aはさ。私のこと、どう思う?ビッチだって思う?」
A「うーん」



A「…クロワッサン」
B「は?」
A「クロワッサンだと思う」
B「いや、」
A「うん」
B「え?」
A「食べたって言ってたよね?」
B「いや、食べたけど」
A「クロワッサンって言いやすいよね」
B「いや、え??」
A「Bに似てる」
B「似てる?」
A「外はテカテカしてて硬いのに、中はなんか、しなしな。」
B「わかった、クロワッサンが嫌いなことはわかったよ」
A「そういうことじゃないですー」
B「いや、明らかに、ただのクロワッサンへの誹謗中傷じゃん」
A「まあ、確かに好きじゃないけど。でも、しなしなが悪いとは誰も言ってないじゃん」
B「そうだけど」
A「外は硬そうなのに、中身はしなしな」
B「…」
A「そこが似てる」
B「…」
A「Bに似てる」
B「悪口?」
A「(笑う)」
B「はー?」
A「違うって」
B「じゃあ何」
A「いや、だから。外から見たら硬そう。強がってる。サバサバしてて、ビッチっぽい。でも本当は、中身はしなしな。メンタル弱い」
B「…」
A「そういうとこ」
B「なるほどね」
A「君はクロワッサン」
B「え?」
A「君はクロワッサン」
B「あ」
A「クロワッサン」
B「クロワッサンか、私」
A「嬉しい?」
B「うーん。まあ、良かった。クロワッサンになれて」
A「好きだもんね」
B「まあ、そうだね」
A「(Bを呼ぶ感じで)クロワッサン」
B「あだ名にするのやめてくれる?」
A「俺は、クロワッサン、好きだよ」



……


『友達の話』

A女
B男
AとBは恋人

Aの家
AとBが座ってお茶を飲んでいる

A「今日のお昼、友達と会ってね」
B「うん」
A「なんか、彼氏にふられたんだって」
B「へー。え、その人と職場近いの?」
A「あ、うん、近い。歩いてすぐ。だけどランチ一緒に行くのは初めてだな」
B「あー。そんなに頻繁に会う感じの友達ではない」
A「そうね。まあでも普通に仲いいよ」
B「ふーん。で、彼氏と別れたと」
A「そう。まあ、もう結構たってるらしくて、別れてから。吹っ切れてる感じはあったけど」
B「あ、どこ行ったの、ランチ」
A「あ、あそこ、パン屋。イートインがある」
B「あー、あれか。あそこ美味しいの?」
A「なんですぐ分かるの」
B「あはは」
A「パンは普通。コーヒーがクソうま」
B「へー! コーヒー大好きー」
A「苦いの好きなだけでしょ」
B「ははは」
A「ゴーヤ大好きーと全く同じトーン」
B「青汁大好きー」
A「苦味フェチ」
B「カカオ何%とか書いてるチョコ大好きー」
A「ふふっ」
B「ティーバッグ入れっぱなしにしたお茶大好きー」
A「ふっ」
B「魚のおなかに入ってるなんか茶色のドロドロしたやつ大好きー」
A「キモッ」
B「いや、ワタじゃない?」
A「は?」
B「キモじゃなくてワタじゃない?」
A「魚のキモじゃなくて、キモいのキモッ!」
B「ギャグセン高いなー」
A「ふん。でしょ?」
B「で、彼氏と別れてでももう吹っ切れてたと」
A「いや、まだ落ち込んでるとこもあったよもちろん」
B「うん」
A「彼氏と一緒にいる時にずっと他の男とLINEしてたんだって」
B「えー、一回? 頻繁にってこと?」
A「頻繁に」
B「あー」
A「彼氏が突然怒ったんだって」
B「突然か」
A「あ、いや、何度かやんわりと言われてたらしいけどね」
B「LINEやめろって?」
A「うん。でもあんまり真面目に受け取ってなくて。そしたら彼氏が怒って、それきり連絡取れなくなったって」
B「あー」
A「私が悪いよねー、自業自得だよねー、って言ってた。その子」
B「ふーん、その人、ふられて落ち込んでるんだ?」
A「うん」
B「えー、なんで?」
A「なんでって?」
B「その彼氏と別れても落ち込まなさそう。そもそもそんなに彼氏のこと大事に思ってなさそう」
A「なんで?」
B「え、だって他の男と頻繁にLINEしてるんでしょ?」
A「うーん」
B「なんで落ち込んでるのか分からん」
A「えー、そういうこともあるんじゃないの?」
B「そういうこと?」
A「うーん、他の男の人とLINEしてても…」
B「してても、彼氏を大事に思ってること?」
A「うん」
B「へー、あんのかね」
A「あるでしょ」
B「ふーん」
A「うん」
B「かばってるの?」
A「かばってる?」
B「その落ち込んでる友達のこと」
A「かばってないよ」
B「ふーん」
A「かばってるかも」
B「ふーん」

B「パン何食べたの」
A「うーんと、バターロール、クロワッサン、食パン」
B「味ないやつばっかじゃん」
A「味ないパンしかなかった、その店」
B「あー、こだわってますよみたいな雰囲気?」
A「うーん。あ、クロワッサンみたいって言われたって言ってた」
B「何が?」
A「その友達が男友達に言われたって」
B「クロワッサンみたいな人だねって?」
A「そう」
B「どういうこと?」
A「なんだっけ。外はパリバリで中はしなっとしてる、みたいな」
B「どゆことー」
A「その子もしなっとしてるってことだよ」
B「その子もしなっとしてる」
A「ただただパリパリな気持ちで軽くLINEしてたわけじゃないんだよ、男友達と」
B「重くLINEしてたなら余計悪いじゃん」
A「重くLINE?」
B「軽くラインしてたわけじゃないんでしょ?」
A「重いの反対は軽いじゃない」
B「なっ」
A「他の男とLINEしてるのが嫌なのは分かるけどさ、その彼氏、Cのこと分かろうとしたのかな? あ、その子、Cっていうんだけどね」
B「お互い様じゃないの。その子も彼氏のこと分かろうとしなかったし、彼氏もその子のこと分かろうとしなかったし。っていうか、むしろ、彼氏さんの方がその子のこと分かろうとしてたんじゃないの、って気もするけどな」
A「でも足りなかったよ」
B「でもそれ言ったらCさんは全然分かろうとしてないじゃん、彼氏のこと」
A「いいんだよ」
B「えっ」
A「彼氏がCのこと分かってあげればいいの」
B「え、男は分かられなくていいの?」
A「男は、ってなに」
B「彼氏は」
A「いいの」
B「えー」
A「Bだって苦いだけでコーヒー好きじゃん」
B「は?」
A「そこだけじゃん」
B「そうだけど」
A「コーヒーのこと全然分かってないじゃん」
B「いや、だから、それ言ったらコーヒーだって俺のこと分かってないじゃん、って話」
A「いいの」
B「え、なに、男と女は違うの?」
A「同じだよバカ」
B「はーー?」
A「何でも男と女の話にしないで。男に肩入れしないで」
B「Aだって女に肩入れしてんじゃん」
A「してない」
B「(黙る)」
A「してるか」
B「んー」

A「生きてただけなのにな」
B「(黙る)」
A「CはただCを生きてただけなのにな」
B「うん」
A「それなのに、私が悪いんだよねーとか言ったり、知らない男にお前が悪いとか言われたり」
B「知らない男って俺?」
A「うん」
B「はは」
A「だけなのにな」
B「う、う、それ言ったら、彼氏も生きてただけ、じゃ、ないかいね」
A「そうだね」
B「ふーー」
A「ふふ」
B「生きてただけかー」
A「その子さ、パン屋で、泣いてた、声出して」
B「え、あのイートインで?」
A「うん」
B「勇気あるなー、狭いよね、あそこ」
A「だからなんで知ってるの」
B「一回あのへん行ったじゃん」
A「それで覚えたの? お店に入ってないよね?」
B「覚えるの得意」
A「ふふん」
B「まあ、あれだよ」
A「うん?」
B「別れるのはよくないこと、ってわけじゃないよ」
A「まあ、そうだよね」
B「うん」
A「でも、いいんだよ、そんなことは」
B「別れるのはよくないことじゃないってことが?」
A「うん」
B「そうか」
A「わたし、Cが好きなんだ」
B「うん」
A「Cが悲しんでるのが、苦しかったんだ、わたし」
B「うん」
A「C」
B「(黙る)」
A「まあ、Cは大丈夫か、Cだし」
B「うん、そんな気がする」
A「そうだね」

A「そういえば、味のないパンしかないパン屋はこだわってます風を装ってる、みたいな考え方、やめてよね」
B「わ、話がめっちゃ戻った」
A「女のこともそうやってすぐ決めつけるんでしょ」
B「えー」
A「男は女のことをすぐそうやって決めつける」
B「ちょっと! A、さっき、何でも男と女の話にしないでって言ってたぞ」
A「女はいいの」
B「うぇーー」
A「覚えといて」
B「う」
A「覚えるの得意なとこだけが好きだよ」
B「ひど!」
A「あはは」

終わり