哲学、読書、演劇、思ったこと。

谷翔です。読書メモ以外はnoteで書くことにした→https://note.com/syosyotanisho10

『死者の部屋での会話』

『死者の部屋での会話』

場所
居住型老人ホームの一室

状況
その部屋に住んでいた女(80代)がさっき亡くなった

登場人物
男(50代、亡くなった女の息子)
女(名前は咲季、高校生、男の弟の子供)

亡くなった女がベッドに横たわっている
老人ホームからの死の知らせを受けて駆けつけた男が座っている
高校生の女が部屋の外から扉をノックする

男「はい」
女「(扉を開けて)あ」
男「あ、入って」
女「うん(部屋に入ってベッドの近くまで来る)」

沈黙

男「あ、お母さんは?」
女「ママは下で話してる」
男「そう」
女「うん」

沈黙

男「パパは?」
女「パパは仕事終わったら来る」
男「あぁ」

沈黙

男「突然だったなぁ……いや、そうでもないか」

沈黙

女「悲しい?」
男「うーん、悲しい、かなあ」
女「……」
男「悲しいっていうか、心が静かになっちゃったなぁ、みたいな感じだなあ」
女「なにそれ」
男「(笑)」
女「どういうこと」
男「うーん」
女「心って、伯父さんの?」
男「うんうん、そう」
女「ふーん」
男「うん」
女「悲しいね」

沈黙

男「咲季ちゃんは?」
女「何が?」
男「悲しい?」
女「いま悲しいって言ったじゃん」
男「あ。そっか、そっか」

沈黙

女「おばあちゃん、綺麗だね」
男「うん」
女「私が死ぬ時も綺麗に死ねるかな」
男「(笑)」
女「なんで笑うの」
男「もうそんな先のこと考えてるのかと思って」
女「綺麗な見た目で死ねるかは大事だよ」
男「そっか」
女「うん」
男「結構何回もお葬式に出たけど、みんな綺麗だった気がするなあ」
女「死んだ人?」
男「うん」
女「ふーん」
男「うん」
女「そういうものなのかな」
男「そうなのかも」
女「ふーん」
男「なんでだろうね」
女「わかんない」

沈黙

女「うちのパパとママは綺麗じゃないと思う」
男「……」
女「あの人たちは、なんか、うん」
男「うーん」
女「たぶん、そう。汚い」
男「うーん」
女「特にママ。パパは、正直よく分かんない」
男「うーん」

沈黙

女「あ、結局、結婚相手、おばあちゃんに見せれなかったね」
男「(笑)」
女「仕事もしてないしね」
男「してるよ! ちょっとだけ」
女「うん」
男「でもそのおかげで親の死に目に会えたから」
女「え、会えたの?」
男「会えたよ」
女「あ、そうなんだ、よかったね。死んだって連絡もらってから来たのかと思ってた」
男「あ、そうだった」
女「え?」
男「ここの人から電話もらって、それで来たんだった。そうだそうだ。死に目に会えてなかったんだ、俺」
女「なんでそれ間違うの」
男「会えた気でいたよ」
女「変なの」

終わり